ボードゲームの日々

ボードゲームを中心に、いろいろなことを勝手に考えてみる。

【ボドゲレビュー】「テラフォーミングマーズ」のおもしろさを勝手に深掘りしてみる

どうも、こすとっくです。

今回はボードゲームレビューpart 11で書いたテラフォーミングマーズ」について、そのおもしろさをさらに深掘りしていきたいと思います。

書きだしてみると、テラフォーミングマーズ」というゲームを題材にして、ボードゲームについていろいろ考える記事になりました。

読んでくれた方に少しでも楽しんでもらえれば幸いです。

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前回記事:【ボドゲレビュー】「テラフォーミングマーズ」を遊んで - ボードゲームの日々 (hatenablog.com)

 

目次

1. 結局何をするゲームなのか

2. カード主体のゲームの特徴と問題

3. ゲームの展開と収束性

4. 拡張の特徴と導入の意義

5. まとめ

 

1. 結局何をするゲームなのか

「このゲームは何をするゲームですか?」という質問に端的に答えるのは非常に難しいと思います。大きく「テーマ、フレーバー」、「メカニクス、そして同じメカニクスを採用しているゲームがあれば、「他のゲームと違うそのゲーム特有の要素」の3点に触れる必要があると思います。

例えば、以前紹介した「ワイナリーの四季」であれば、「ワイン農場を経営するゲーム」が「テーマ、フレーバー」、「ワーカープレイスメント」が「メカニクス」、「強力なカードプレイや他のワーカーに左右されずにおける特殊ワーカー」などが「他のゲームと違うそのゲーム特有の要素」になるかと思います。

(参考記事:【ボドゲレビュー】「ワイナリーの四季」を遊んで - ボードゲームの日々 (hatenablog.com)

テラフォーミングマーズは「火星をテラフォーミング化するゲーム(フレーバー)」ですが、その根幹となるメカニクスはなんでしょうか。まず、見た目としてはカードをメインに扱っていくゲームなので、「ハンドマネジメント」でしょうか。間違いではありませんが、これだけではどこに思考のポイントがあるのか、本質がわかりにくいです。

私の考えるこのゲームのメカニクスはお金(メガクレジット)による擬似的な「アクションポイント」です。手持ちのお金をカードの購入、カードアクションの実行に割り振っていくゲームで、その他のリソースは2次的なものです。アクション自体は他人に邪魔するされることがないこともアクションポイント的な部分です。ユニークカードによってさまざまなアクションがありますが、アクション選択において考えるのはお金の割り振りだけであり、その他の要素は重ゲーならよくあるもので構成されてます(エンジン構築系アクションによる拡大再生産から得点化アクションによる詰めの展開、数種のリソースのマネジメントなど)。

他のゲームにないすごいところは、非常に多くのユニークカードを使いながらも、そのバランスがきちんと取れていることでしょう。これが、お金の割り振りに選択の幅をもたらし、ゲームを奥深いものにしています。しかし、膨大なカードに惑わされなければ、お金の割り振りを考えるゲームという非常にシンプルな骨格が見えてくると思います。

 

2. カード主体のゲームの特徴と問題

カードというコンポーネントの最大の特徴として、情報量(ビジュアルなものも文章も含め)を多く盛り込めるということがあります。これゆえに多様なアクションを表現することができ、これを1枚として同じカードのないユニークカードで最大限活用しているのが「テラフォーミングマーズ」というゲームだと思います。

ただ、カード主体のゲームにはいくつかの対処すべき点があるとも思います。

1つ目はその情報量の多さです。カードというコンポーネントは情報量を多く盛り込めますが、その分、その理解、処理には時間がかかります。この、ルールの理解、処理の部分が脳内で大きなウエイトを占めてしまうと、戦略への思考に割けるパワーが少なくなってしまうため、ゲームを楽しくプレイすることが難しくなります。「ほどよく悩める」ことがゲームのおもしろさにつながるのです。その点、テラフォーミングマーズでは、アイコンやタグによって効果がわかりやすく、また、複雑な処理を求める効果も少ないと思います。さらに、はじめの手札選択以降は毎ラウンド4枚の新カードを確認するだけなので、情報の処理量としては多すぎないような調整がなされていると感じます。

2つ目はカードシナジーをより多く知っている経験者の方が有利なゲームとなるのではないか、もしくはカードの種類を把握できていない初見プレイでは上手くゲームを進められないのではないかという点です。これに関しては、テラフォーミングマーズにおいても少なからず存在する問題であると感じます。しかし、前述のとおり、テラフォーミングマーズのカード効果やカードデザイン、情報量は複雑すぎず、初見プレイでもわかりやすいものになっていると感じます。また、「強力なカードで地球化を進めたい」→「コストが高い、もしくはタグなどの条件が満たされていない」→「まずは今出せる低コストのカードでタブロービルドして生産力を高めよう」というストーリーが明快なので、そのとき使いたいカードの選択で困ることはあまりありません(このことが次の問題につながりますが)。私の初回プレイでは、嫁様と2人、はじめて同士でプレイしましたが、ゲーム進行に特段問題に感じることはありませんでした。もちろん、種々のカード効果を把握していくにつれてプレイの質は変わっていきます。ユニークカードの中身を知る経験者ほど、よりゲームの全体像を把握して有利に立ち回れることは間違いありませんが、その差が、ゲームを楽しむ上で問題になるとは思いません。(そもそもどんなゲームでも(運要素が少ないものほど)経験者が勝ちやすいのは当然です。)

最後にカードの引き運と手なり感についてです。ゲームの性質上、カードの引き運によってプレイが強く左右されます。このことは大局的な戦略の実行を難しくし、どうしてもその場その場での状況対応、戦術立案を余儀なくされます。また、カードごとに発動条件があるため、その場での行動にはかなりの制限がかかり、どうしても「手なり」で進めることになる部分があります。強いカードコンボを狙っていても、引けなければ無意味です。テラフォーミングマーズにおいてもこの部分は1番の問題点であると感じます。テラフォーミングマーズは2時間級の重ゲーなので、カードの引き運で強く勝敗が左右される(と感じる)のは好ましくありません(短時間の軽いゲームであれば、何度か繰り返しプレイすることで全体的な運要素による勝敗が平均化されます)。そこで、テラフォーミングマーズでは引き運の緩和措置として「カードの購入、使用の2段階に分けて選択させる構造」、「カードドローの機会を増やすカードの存在(アド損になる場合が多いが)」、「手札によらず選択できる標準プロジェクトの存在」あたりを採用しています。特に標準プロジェクトの存在は、電力以外のタブロービルドをすることはできませんが、お金のみで地球化(得点獲得)のアクションが可能であり、終盤は有効なカードがない場合にわりと使う印象です。これらの措置により、引き運がゲームもたらす影響はあるものの、それが欠陥とはならず、理不尽さを感じずにプレイできるゲームとなっています(もちろん個人の好みはあると思います)。 

なお、運要素緩和のためにドラフト(クローズドドラフト)が選択ルールとして示されていますが、ゲームを非常に重くし、私が思うテラフォーミングマーズの良さが損なわれると感じるため、1度も採用したことはありません。

 

3. ゲームの展開と収束性

プレイ時間の長いゲームでは、序・中・終盤においてプレイヤーを途中で飽きさせないような工夫、変化、展開が必要になります。

テラフォーミングマーズは、序盤のタブロービルドによる拡大再生産から終盤の得点化というストーリーが非常にわかりやすくデザインされています。このようなゲームでは構造上、序盤のビルドアップの段階はゲームスピードが遅く感じてしまうことがありますが、テラフォーミングマーズにおいてもその傾向が極めて顕著に現れます。シンプルなカードゲームであることが要因のひとつであり、序盤の能力アップに適したカードが得られない場合には、特別有用でない(と感じる)カードを使ったり、コストが割高になる標準プロジェクトを行うことになるなど、動きの少ないゲームとなってしまいます。このことは終盤の加速度をより高める効果もありますが、全体的なプレイ時間の長さを考えるとマイナス面が大きいと思います。

プレイ時間の長いゲームにおいて中盤、プレイヤーを飽きさせない工夫として、「中間目標」が設けられることが多いです。テラフォーミングマーズにおいても、「称号」と「褒賞」という異なるタイプの2つの早どり目標が存在します。しかし、カードゲームという構造上、ドロー回数の少ない序盤から目的のカードを引くことは難しく、目標達成は運に左右される部分が大きいです。その上、目標達成で得られる勝利点は大きく、無視できる要素ではありません。なお、単純な達成速度を競う「称号」とは異なり、ゲーム終了時のボーナス勝利点要素を決定する「褒賞」の方が、より終盤に手を出すことになるため、このゲームにマッチした要素であると思います。

終盤、ゲームの詰めの段階において問題視されるのは、ゲーム終了のトリガーをプレイヤーがコントロールできる(ラウンド数等で手数が固定されていない)点です。これにより、地球化によってゲームを終了させることができる状況にも関わらず、あえてゲームを終わらせずにカードや都市建設によって勝利点を稼ぐことが可能です。このことは、ゲームの収束性を悪くして、プレイ時間の無駄な長時間化を生むことにつながります。しかし、ゲームの勝敗に目を負けた場合、本当にこのような問題が発生するでしょうか。まず相手より勝利点が高いと考えている場合、ゲーム終了を目指すことは、そのまま勝利につながります。終了トリガーとなる地球化は勝利点行動なので、手数として損することもあまりありません。勝っているプレイヤーは早く終わらせた方が得なのです。明確に誰が勝っているかわからない場合は、強力なタブローを構築できているプレイヤーが有利です。ゲーム後半まできて、この差を埋めることは難しいです。タブローが相対的に弱いプレイヤーはゲームを早く終わらせなければ差が開く一方です。したがって、基本的にゲームを、終わらせた方が得をするプレイヤーがいる以上、ゲームが終了しないことはあり得ないと思います(もちろん、勝敗に関わらず、高得点を目指したり、終了時の盤面の出来栄えをよくしたい場合などはゲームの長時間化が望ましく、収束性が悪くなります)。

 

4. 拡張の特徴と導入の意義

前提として私はゲームが持つ要素を増やし、複雑にするような拡張を好みません。ゲームの根幹となるおもしろさが拡大するものは少なく、むしろ元々のゲームバランスを崩すことが多いからです。テラフォーミングマーズにおいても元々のプレイ時間が長いため、要素の追加は好ましくないと考えます(私は以降紹介する拡張以外は未プレイであり、あくまで個人の勝手な好みとして書いています)。この考えのもとで、私が購入した2つの拡張について紹介します。

1つ目は「プレリュード」拡張です。この拡張では、ゲームのはじめにプレリュードカードを選択し、その効果を適用するだけで、通常のゲームルールを一切変えることはありません。プレリュードカードの主な効果は、特定の資源の生産力を上げるなど、自身のタブロービルドを行うことです。これにより、ゲーム開始時点で概ね1〜2ラウンド分のタブローが強化された状態でスタートするため、基本ゲームにおいてスロースタートとなる序盤の短縮になり、ゲーム展開がスムーズになります。また、プレリュードカードは最初の企業カード、プロジェクトカードの選択時に追加で選択することになるので、それらのカードとのシナジーを考えながらの選択になり、より戦略性も上がります。ゲーム構造を変えることなく、弱点の1つであった序盤のゲームスピードを改善する素晴らしい拡張であると思います。

2つ目の拡張は「ヘラス&エリシウム」拡張です。これは、共通のプレイボードを差し替える拡張であり、海洋の配置箇所やボーナス箇所の変化、ボーナス勝利点の称号、褒章の内容の変化をもたらします。これも基本ゲームの根本的な構造やプレイ時間に影響を及ぼすことなく、プレイ感を変化させることができ、簡単にリプレイ性を向上させる良い拡張だと思います。

 

5. まとめ

これまで書いてきたように、テラフォーミングマーズは、カードプレイを主軸としたメカニクスとプレイ時間の長さからいくつか弱点となりうる要素を持っています。しかし、テラフォーミングマーズにはそれを補って余りある楽しさとプレイ後の地球化盤面の満足感をもつゲームです。

細かなルール量など、決してハードルの低いゲームではありませんが、私の格別にお気に入りのゲームなので、ぜひ遊んでみてください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。